脱炭素チャレンジカップとは
2025220日(木) 開催予定

脱炭素チャレンジカップ2024・受賞者インタビュー

「再エネとグリーン水素で目指せ!脱炭素の島」実現プロジェクト

壱岐市(長崎県)

歴史の島が挑む 脱炭素の”最先端”

(壱岐島)

博多から高速船で約1時間、玄界灘に浮かぶ離島、壱岐島。『日本書紀』にも登場するなど、悠久の歴史が息づくこの島が、いま力を入れるのが「脱炭素」です。
環境大臣賞グランプリを受賞した取組の現場を訪ねました。

(ソーラーパネル)

(トラフグの陸上養殖場)

海岸線に近い高台にずらりと並ぶソーラーパネル。つくられた電力を活用しているのが、地元企業が運営するトラフグの陸上養殖場です。電力は地下水をくみ上げるポンプの稼働などに使われますが、それだけに留まりません。「余剰電力」で水を電気分解し、水素として貯蔵。この水素を使って燃料電池を動かす「水素発電」によって、太陽光で発電ができない夜間もポンプを稼働させることができます。壱岐市が東京大学先端科学技術研究センターなどと連携して実証を行う、このRE水素プロジェクト。
各地で再エネの普及とともに「余剰電力」が増加し、その活用法が模索される中、見事実用的なシステムを導入し、2022年度には40トン以上の二酸化炭素を削減しました。

(篠崎さん)

プロジェクトを主導する、壱岐市総務部SDGs未来課の篠崎課長は、国内にとどまらず、いま海外からもその取組が注目されていると話します。
「昨年度は35件、計400人以上の方に視察に来ていただきましたし、ある自治体から同じシステムを導入したいとの相談も受けています。グランプリ受賞後にはシンガポールの大使館の方が視察に訪れたほか、太平洋島嶼国に向けてこの取組を紹介する機会もありました」

電力、熱、水素に加え、「酸素」も地産地消

ただ、気象条件によって発電量が左右される太陽光発電を用いて、システムの電力を安定供給するにはいくつもの困難があります。
バックアップとして使う蓄電池の放電量を高めたり、日射の状況を把握できるよう雲の動きを先読みする観測システムを作ったりと、チャレンジを繰り返した結果、なんとか実用レベルにこぎつけました。
ちなみに低塩分の地下水で育つトラフグは成長が早く、身も上質になるそうで、壱岐の新たな特産品となることも期待されています。

(壱岐の養殖トラフグ)

さらにこの取組がユニークなのは、システムから出る排熱のほか、水の電気分解によって発生する酸素も活用できる点です。酸素は魚の安定した生育に必要不可欠なため、従来は商用電力を使って酸素発生器を稼働していましたが、水素製造の副産物として発生する酸素を利用することで省エネとコスト減にもつながります。ここにも壱岐市の“チャレンジ”がありました「どこで実証をやるか、という最初の入り口部分での逡巡は結構ありました。最初は単に、電気と熱を使おうという発想でしたが、どうにか酸素を有効利用できないか、と色々検討する中で酸素を必要とする陸上養殖場に行き当たったんです」

チャレンジの源にある危機感

(郷ノ浦港の磯焼け)

壱岐では近年、地球温暖化の影響による海水温の上昇や磯焼けなどを背景に漁獲量が減少。2019年には全国の自治体に先駆けて「気候非常事態宣言」を宣言しました。
地元の釣り人に話を聞くと、口をそろえて「昔のようには魚が獲れない」とこぼします。養殖場を運営する企業の現場責任者も。

「毎日のように海水の温度を計っていると、以前は12℃台の日がありました。しかし、今は13℃の日すらなくなり、14℃台です。思った以上のスピードで温暖化が進んでいると感じます」(株式会社なかはら 濵中さん)

気候変動によって水産業が打撃を受ける中、養殖に取り組む地元事業者のニーズと、脱炭素という世界的潮流をうまくマッチさせて、今回の実証にいたったのです。

さらに今後は、島内の病院にこのRE水素のシステムを導入する計画で、ゆくゆくは病院でも酸素を活用できる仕組みを模索中です。

「まずは調査、そして基本的な電力システムの設計に取り組んでいきます。酸素についてですが、医療用の酸素はクオリティーの問題や法規制もあるので、そのあたりも考慮しながらまだ検討している段階です」
(壱岐市 篠崎さん)

市民や企業と丁寧な合意形成を図りながら、RE水素の取組で着実に成果を出す壱岐市。今後の脱炭素チャレンジにも期待が高まります。

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青パパイヤグローカルプロジェクト!地域課題解決に向けた取組

愛媛県立西条農業高等学校 食農科学科
チームパパイヤ(愛媛県)

チームパパイヤの挑戦

近年、健康や美容に良いスーパーフードとして注目される青パパイヤの栽培で地域課題の解決に挑む高校生たち。環境大臣賞受賞後の反応について、“チームパパイヤ”の皆さんに聞きました。
「地元の雑誌や新聞に取材されたほか、学校でも表彰されました。友達からも『凄いね!』と声をかけてもらい、うれしかったです」

(チームパパイヤの皆さん)

チャレンジカップの表彰式で、司会者も興味津々だった、パパイヤキムチの味については・・・。
「青パパイヤは、きゅうりやメロンのような食感で、少し苦みはありますがおいしいですよ。是非食べてみてください」

(パパイヤキムチの試食)

グローバル × ローカル

もともと東南アジアなどでは定番食材として料理に使われてきた青パパイヤ。
近年は温暖化のあおりを受け、ここ日本でも気温上昇に適応する作物として栽培が進んでいます。加えて西条市では近年、東南アジア出身の人たちが増えていることも普及の追い風になっているそうです。

これまで企業と連携して「パパイヤキムチ」や、「鯛カマとパパイヤの煮つけ」など目を引く商品を開発してきましたが、今後はさらに大手宅配ピザチェーンとのコラボも計画中なのだとか。

ソーラーシェアリングで脱炭素

耕作放棄地の増加というローカルな課題を発端に、気候変動というグローバルな課題に取り組む高校生たち。気候変動への「適応策」としてのパパイヤ栽培にとどまらず、「緩和策」として「ソーラーシェアリング」にも取り組んでいます。
ソーラーパネルの下でパパイヤを育てることで、農業生産をしながらクリーンな電力を生み出し、カーボンニュートラルな農業の普及を目指します。

「夏の暑い日に植え付けを行ったり、みんなの予定を合わせたりするのにとても苦労しました。でもみんなで力を合わせて頑張った結果が、今回の受賞につながったのだと思います。受賞をきっかけに『青パパイヤを食べてみたい』と言ってくれる地元の人も増えてきたので、今後も取組を継続していきたいです」

(ソーラーシェアリングによるパパイヤ栽培)

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共創!ワクワクの
「脱炭素チャレンジフィールド」

取手市立取手西小学校(茨城県)

「脱炭素チャレンジ広場」が少しずつ形に

環境大臣賞の受賞からひと月経った3月半ば、4年生の児童と保護者が、校庭の一角にある「脱炭素チャレンジ広場」で植樹を行いました。学校で排出したCO2を木が吸収する「カーボンオフセット」の仕組みを学び、杉やリンゴの木などをあわせて50本以上植えました。
土に混ぜたのは、給食の残渣を再利用した肥料。さらに地元の農林事務所が提供してくれた腐葉土も混ぜました。
雪もちらつく寒い日でしたが、楽しみながら皆で協力して苗を植えました。

(「脱炭素チャレンジ広場」での植樹)

重要なのは“体験”

取手市が実施する「サステナブル学習プロジェクト」のひとつとして行われているこの取組。市内の学校の代表が集まるフォーラムでも紹介されるなど、先行事例として注目されています。担当の取手西小学校、安養寺先生に話を伺いました。

「子どもたちが本当に生き生きと取り組んでいて、斬新なアイデアに驚かされますし、保護者からも『今まではできないような体験をさせてもらってありがたい』といった声を頂いています。子どもたちにはぜひ、座学にはない“記憶に残る体験”をしてもらいたいです」

(取手西小学校 安養寺先生)

広がるワクワクの渦

さらに地域における、脱炭素の輪も広がっています。3月下旬には、同じ茨城県からチャレンジカップに応募し、優秀賞などを受賞したLove Earth Dayの皆さんとともに、茨城県知事を表敬訪問しました。
取手西小学校では、引き続き大学や企業、自治体などと連携しながら、子どもたちのワクワクにつながる脱炭素の取組をアップデートしていく考えです。

(受賞後に茨城県知事を表敬訪問)

「カリキュラムや予算上の制約も多いのが教育現場ですが、自分たちの取り組みが認められることで、徐々に変わっていくことを願っています。未来を担うのは子どもたちですから」(安養寺先生)

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ビル壁面を活用した太陽光発電システムによる脱炭素化の推進

大成建設株式会社&株式会社カネカ(東京都)

ビルの外壁で発電!

言わずと知れた大手ゼネコンと総合化学メーカーがタッグを組んで挑んだのが建物の「創エネ」です。昨今、建物の省エネは浸透しつつありますが、エネルギーをつくり出す「創エネ」技術はまだまだ課題も多く、普及途上にあります。
こうした中今回、2社が共同開発したビル外壁面を活用した創エネシステムを実装した、大成建設の横浜支店を訪れました。

(大成建設 横浜支店)

窓でも発電?

築50年のビルをリノベーションしたこの建物。一見何の変哲もないビルの外壁に見えますが、南東のメインファサード一面にずらりと並ぶのは、建材と一体化した太陽光発電パネルです。壁はもちろん、開口部にもシースルータイプのガラス一体型発電モジュールが用いられ、窓として採光しながら建物で使う電力の一部を賄える優れものです。

(ガラスと一体化した太陽光発電モジュール)

一連の技術によって、新築はもちろん、既存の建物のZEB化(消費する一次エネルギーの収支を正味ゼロにすること)にも大きく貢献できると話します。

考えているのは『脱炭素に向けて建築界に何ができるか』です。「建物全体のうち、新築は2%で、残りの98%は既存の建物。既存の建物のZEB化で『こういうやり方がある』ということを提示したいです」(大成建設 清水さん)

これまでに10件を超える導入事例があるほか、企業などからの引き合いも絶えないそうです。
一方、パネルの開発を担ったカネカの担当者からはこんな本音も。
「大成さんの意匠の要求がとても厳しく、何度も試行錯誤しました。でもそのお陰で、非常に高いクオリティーと耐久性を併せ持つ製品を世に出せました」(カネカ 壇野さん)

60万トンのCO2削減へ!!

目標はこのシステムの設置規模を、2050年までに、年間100万㎡までに拡大し、累積で60万トン超のCO2削減効果を実現すること。普及に向けてはコスト面が課題ですが、量産化や取り付け方(工法)の工夫によってコストダウンを進め、商用ビルだけではなくマンション、そして将来的には戸建て住宅への導入も視野に設置拡大を進める考えです。

(大成建設とカネカのみなさん)

「自分たちは良い技術だと信じて開発してきましたが、本当に評価されるか不安な部分もありました。環境大臣賞の受賞は、導入拡大に向けたモチベーションの向上につながっています」(大成建設 山口さん)

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学校断熱を契機とした行政、
議会、市民の連携による脱炭素の取組

#7年後も「住みやすい街大賞」1位とるぞ!
藤沢プロジェクト(神奈川県)

“市民の声”を届ける

長いハッシュタグとキレのあるラップで、会場を沸かせた藤沢の市民グループ。湘南台駅から少し離れたところにあるグループの“拠点”7325COFFEEで、市民が行政と連携して脱炭素を進める秘訣を伺いました。

(メンバーの皆さん 真ん中が代表の藤法さん)

もともと環境NPOの活動などを通じて知り合ったという皆さん。年齢も職業も様々ですが、“環境のために何かしたい”“藤沢を住みやすい街にしたい”という思いで結束し、このプロジェクトを立ち上げました。

「私は以前、藤沢市の環境審議会の市民委員として、地球温暖化対策の改正などを話し合ったのですが、その際、『一人だけで意見ばかり言ってるな…』という反応に何度も直面しました。そこで、私だけではなく、他の市民の声も行政に伝えたいと思い2022年に活動を始めました」(代表 藤法さん)

チャレンジの好循環

市の気候変動対策を前進させるために、藤法さんたちはまず市の担当職員に話をしにいきました。その際、太陽光発電設置の推進や断熱化の取組についての現状をお聞きし、陳情を提出することに決めました。

「職員さんたちも、課題自体は認識していましたが、そこに限られた予算をどの程度回してよいのか。どれだけ市民が求めているのかが分からない。そこで私たち市民の声を議会陳情という形で伝えることにしました。その際、全会派の議員さんに丁寧に必要性を伝えることで、市として『断熱をやらない理由はない』という状況を生み出すことができたんです」

さらに、議会での陳情などを通じて、行政のサポートも得ることができました。断熱に知見のある藤沢市の担当者が、地元の学校や建設会社などに積極的に声をかけることで、一緒に小学校の断熱ワークショップを開催することになったのです。行政にとっても、“市民の声”が新たな取り組みに挑戦する推進力となり、“チャレンジの好循環”が生まれたようです。

とはいえ、市で予算を組むには長い時間が必要です。そこで藤法さんたちは、自らクラウドファンディングを立ち上げ、資金集めにもチャレンジ。わずかひと月余りでワークショップに必要な100万円以上が集まりました。断熱に馴染みのない人も多い中、自分たちの活動の意義を分かりやすく、楽しく伝えたラップ動画の訴求力が大きかったと振り返ります。

「資金を募る過程で、メンバーがラップのユニット“へらずぐち”を結成してSNSなどで発信してくれました。私には絶対できないことなので、チームの力を改めて実感しました」

(立ち上げたクラウドファンディング ※現在は終了しています)

脱炭素の街=住みやすい街

その後藤法さんたちは、公共施設に限らず、地域の空き家を貸出スペースとして運営している方の協力をいただき、民間施設の断熱ワークショップにも取り組んでいます。藤沢市がさらに“エコな都市”になるよう、引き続き市に働きかけるとともに、食/農業やプラスチック削減、「江ノ島/エコ島」などを切り口にした新たなプロジェクトも計画中なのだとか。

「カーボンニュートラル」と「住みやすい街づくり」は軌を一にするとの確信は、ますます深まっています。

「審査員の方のコメントにもあるとおり、脱炭素を達成する街は本当に住みやすい街だと思います。それはつまり、未来を見据えて、どういう未来を残したいかということを主軸に考えているからです。今後も豊かな未来を見据え、活動の輪を広げていきたいです」

(2024年4月現在、#6年後も「住みやすい街大賞」1位とるぞ!藤沢プロジェクトとして活動中)

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